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【Vol.5】小田晃生

今回はVol.2で紹介をしたCOINNのメンバー小田晃生さんとのインタビューです。昨年の12月26日に配信が開始された新しいソロアルバムを中心に、テーマや制作の様子などをたっぷりと聞かせて頂きました。

<プロフィール>

小田晃生(おだこうせい/Kohsey Oda)

 

音楽家。作詞作曲と歌、演奏楽器は主にギター、パーカッションなど。

些細な物や出来事をモチーフにした、虫眼鏡な作品づくりが十八番。また、作詞から発展した言葉遊び「オリジナル早口言葉」を様々な形で披露している。

弾き語り中心のソロの他に「COINN」「ロバート・バーロー」など、子どもたちへ向けた創作活動を行うグループにメンバーとして所属。そのほか、ギターレッスン講師、映像作品の音楽制作や出演、ナレーションなども務める。

2020年12月、最新アルバム『ほうれんそう』を配信リリース。

 


☆インタビュー記事☆

__今回のアルバムのタイトルは「ほうれんそう」。

アルバムのジャケットを見ると、お野菜の「ほうれん草」を連想しますが、タイトルに込めた願いなどはありますか?

 

アルバム全体の内容は、自分が抱えている面白いこととか、苦しいこととかをどうやったら人に伝えられるか、また、そういうものを抱えている人をどうやったらキャッチできるかを考えました。そういう大きなテーマのもとに、ビジネス用語の「報告・連絡・相談」の「ほうれんそう」をからめて作ったというのが、今回のタイトルの成り立ちです。

だけど、うちの奥さんが2年前から野菜農家を始めていて、僕もそのサイト作りや、たまに畑に出て手伝ったりもしているので、そういった様子をSNSなどで我が家のストーリーとして見ていた人にとっては、ミスリード感があるといいなと考えていました。

タイトルだけでは、「さすがに野菜じゃなかろう」とみんな思う気がしていたのですが、今回、デザインを担当して頂いた白澤真生さんが敢えて野菜のほうれん草を模したイラストをジャケットのメインに描いたのもあって、多くの方がそっちをイメージしていたようですね。

 

「ほうれんそう」アルバムジャケット


__私も、アルバムを聴いてから「あ、こっちだったのか、だまされた!」という楽しい気分になりました。

アルバムの収録曲は、これまでの晃生さんらしい曲と今までにない印象の曲が絶妙に混ざり合っているように感じました。今回のアルバムを作る中で、特に意識されたテーマのようなものはありますか?

すでに出来上がってライヴでも演奏していた曲もあったのですが、「自己と他者」というようなテーマでまとめていきたいと思い、追加曲も作って仕上げていきました。

曲調や音楽的なことは、意識的にこういうものに挑戦しようとは考えていなくて、一曲一曲がそれぞれの仕上げていきたい方向に自然に向かっていった感じです。

勇気がいったのは、やはりラップのところですね。僕をすでに知ってる人に聴いてもらうのには勇気がいるなあ…と。でも以前から、歌唱法として、メロディーや音符の数、節回しに引っ張られないで気持ちとか言いたいことを歌えるってすごくいいと思っていました。もともとミクスチャーとかがすごく好きでよく聴いていたので、徐々にどんどん取り入れていきたいです。

 

 

__確かにあのラップ調のところは新鮮でした。曲の流れの中で、自然と取り入れられていて、グッと気持ちが伝わってきました。お馴染みの言葉遊びや、往年の名曲パロディーのような、昔からある曲を楽しく歌うという晃生さんらしい曲達も楽しく聴かせて頂いています

「僕らしい感じ」というのが聴く方それぞれにきっとあるんですよね。僕はコミックソングというジャンルが好きで、ばからしい歌におかしさと悲哀のようなものも含まれている。そういうものもアルバムに1つくらいほしくなってしまう。僕がそういう面を持っているので、それを隠すのがなんだか嘘くさく感じてしまうのです。でも、「小田のここが好きだけど、ここは嫌い」っていう意見があってもいい気がしています。「しんみりした曲が集まったものは無いですか?」と言われることもあって、そういうご要望も大事なので、どこかでは応えてはいきたいです。でも僕という人間の中はとっ散らかっていて、一色ではないのでなるべくそこも表していきたいと思ってます。

__表題曲の『ほうれんそう』。

この曲が、一番リアクションが多かったと伺いましたが、私の中でも、今までにない印象の曲です。これまでにもご自身の思い出や感じていることを歌われているものが多くありますが、ここまで、晃生さんがご自身の気持ちをぶちまけるような曲はあまりなかったのかなと思うのですが。この曲が出来上がるまでのエピソードなどはありますか?

全体のテーマを後発的にまとめ上げていく中で、前から薄々は気づいていたのですが、「どうやら僕は『自分のために』曲を作っているのかもしれない」という感覚がはっきりしてきました。

で、実は『ほうれんそう』は、最初、「ライブハウスでライブをするときの悩み」を描こうとした曲だったんです。もともとの自分の性格もあって、普段から他のバンドとの交流が無かったり、その場でさっと仲良くもなれないので当日の楽屋で孤立したりすることも結構あって。僕がどういう人なのかライヴ本番まで伝えられない。だから自分の曲が自分を紹介するための手段であり、名刺のようなもの。自分の曲で、武装してライブハウスに向かっているようなイメージが湧きました。そこに「自分のために作ってる曲なのだ」というテーマが被さり、一度最初の要素を削ぎ落として出来たのが『ほうれんそう』という曲でした。


__意外なエピソードで驚きました。曲を聴いていると、山の奥で作られていったイメージだったので、ライブハウスから誕生したとは思いもしませんでした。

山の奥という視点も確かにありますね。歌詞の中に「あの山の向こうへ」と書いたのですが、これは僕が岩手県の田舎町の出身なのもあって、「ここにいたら何もできないんじゃないか!」という焦燥感がありました。その心象風景の象徴ようなものとして書いた歌詞です。

こんな感じでこの曲は、ライブハウスが舞台の歌ではなく、もっと僕の根本的な出自にかかわるような歌になりました。今回、リリース前に募集したみなさんからのアルバムレビューを読むと、皆さんこの曲をそれぞれにご自分に重ねて聴いてくれていて、こういうほんとにごく個人的な気持ちを描く曲の作り方を、以前より信じられるようになりました。

__今のお話にも出てきましたが、今回のアルバムの配信前に、レビューを書くという条件で先行試聴を公募するという珍しい取り組みをされましたが、狙いとみなさんの反応はいかがでしたか?

反応は思ったより頂けて、とても嬉しかったです。狙いとしては、映画の試写会のようなイメージでした。音源のミックスやデザイン以外、今回のアルバムは僕が完全に僕だけでの感覚で作ったもので、自分の作品を客観的に捉えて紹介するような言葉を作るのがとっても難しくて、じゃあお客さんの反応を参考にしよう!ということでやってみた企画です。

あと、本来はその作品に関わった人数が多ければ多いほど波及力・宣伝力は強くなるのですが、バンドメンバーもスタッフも無い、孤軍奮闘な状況だったので、試聴して下さった方がその部分でも味方になってもらえたらと考えました。結果的に本当にやって良かったと思っています。

__SNS上でも、とても素敵なレビューが飛び交っていましたね。みなさんから寄せられたレビューは、今後何か展開があるのでしょうか?

配信だけのアルバムなので、CDに付いてくる歌詞カードの代わりのようなものとして、パンフレットのような冊子を作っています。

歌詞テキスト、楽曲解説、レコーディング風景の写真、対談などを掲載予定で、そこに事前に頂いた全員分のレビューを載せます。若干、文字数などは調整をしますが、取りこぼせないくらいありがたい文章を書いていただいているので、アルバムを聴いた人でも、聴いてない人でも、「この人はこう聞いたんだ〜」と、イメージが広がるいい読み物になる気がしてます。


__やはり、歌詞カードを見ながら曲を聴きたいと思ってしまうので、そういったパンフレットは嬉しいですね。みなさんのレビューもとても楽しみです。

アルバムは、孤軍奮闘お1人でご自宅の作業部屋でレコーディングされたとのことですが、この音楽作りのスタイルはどうやって確立されたのですか?また、今回のアルバムでこだわったことなどはありますか?

1人での録音作業は、自分のソロのもともとの姿に一番近いと思っています。2006年頃からソロとしてライブやレコーディングを始めて、小さい機材を使って1人で録音したものをグッドラックヘイワの野村卓史くんに助けてもらって最初のアルバム『まるかいてちょん』が出来ました。その後、運良く『発明』という作品で、スタジオ使って、ゲストミュージシャンやスタッフが関わって制作させてもらえたことで、そうしないと広く届くものには出来ないような気がして、『チグハグソングス』では、なるべく近いスタイルを頑張ってみました。

でも、かかった製作費と時間を思うと、家族を巻き込んだギャンブルのような感じがしてしまいました。もっと自分の規模感を見据えて、スケールを小さく、しっかり自分に手繰り寄せてできることに限定して作ろうと考えたのが、今回のこだわった部分かもしれないです。

ゲストも入れようかとも考えましたが、結果的に全部1人でやることにメリットを感じました。試したり失敗してゴミになってしまったテイクも1000テイク以上があって、こんな、めんどくさいことにつきあってくれるのは、最後は僕だけなので。どこまでもわがままになれるので、1人であることの贅沢を優先してみました。ただ、「まあ良いか〜」ってなりがちな性格なので、これまでよりも少し厳しめに自分の録音テイクのジャッジするよう意識しました。まだまだいたらない点は多々あるんですが…。

あとは、全部1人、と言いましたけど、家族にも少しコーラスしてもらったり、録音中に静かにしてもらったりと、多々協力をしてもらってますね。


__極限で自由な制作なのですね。

孤軍奮闘のソロの活動とともに、「COINN」や、「ロバート・バーロー」などグループでも多彩なご活躍をされていますが、ソロとの両立の秘訣はありますか?

両立は、実はあまりできていないと思っていて。特にグループでの方の制作が動き出すと、ソロの優先順位が低くなり、うまく動かないことが多くなってしまうので、両立のバランスはあまりうまくとれていないなと思っています。今回、もともと「2020年はソロ1枚出そう!」という気持ちがあって準備も進めていたので、コロナ禍になりグループで集まりづらくなったことは残念だったけど、結果ソロの制作で迷惑をかけずにできたかもな、とは思います。

両立のバランスはうまくとれていないけど、両方必要だと思っています。メンバーと関わることは僕にとって、多大なインプットです。僕の脳みそでは到底考えつかないことが生まれたり、僕だけじゃ出会えない人に出会える機会ももらえます。

それと、今回のアルバムのテーマには、グループの一員であることも大きく影響していました。言ったと思ったことが伝わっていなかったり、相手のことをわかったつもりになっていたり。家族に対して起こるトラブルに近いようなことがメンバーとの間でも起こります。だから、わかったつもりにならないようにしようとか、伝えるためのエネルギーをだらけないようにしなくちゃいけないなとか、メンバーを通して考えるきっかけになっているなと。なので、ソロもバンドも両方必要だなと感じています。

__2020年はコロナ禍で、私も自分以外の他者との関わりを深く考えました。そんなタイミングにこのアルバムが聴けて良かったと感じています。

ありがとうございます。僕の必死な気持ちも沢山込めたので、「今みんなに聴いてもらわないと!」って僕も思って作りました。SNSなどで僕の宣伝ばかり見てもらってると、どうしても実際より明るくうまくやってそうな感じがされてしまう気がするんですよね。だからこそ、自分のままならない部分を、愚痴じゃなく、きちんと届く音楽という形にしたいと思いました。僕も、人と比べたらこんなことはちっちゃい悩みだから、とか思って飲み込んじゃいがちだけど、そういう個人の苦しみも、なんとか表に出していかないと意外と危ないような気がします。

__コロナ禍の中で、なかなか思うようにライブもできないかと思います。いち早く配信ライブもスタートされていましたが、取り組みの中でのご苦労なども多いかと思います。そんな中でも続けてこられて感じていることなどはありますか?また、今後のライブ情報などもありましたらお知らせください。

配信という方法に関しては、若干苦しさを感じつつありますね。初めは僕が配信をやることに物珍しさもあって、ご覧頂いたり、拡散して頂いたり出来てたのですが、その後配信がどんどん増えたり、有名ミュージシャンがしっかりとした配信を始めて、あっという間に路上ライブ化しちゃった感じがしてます。ウェブ投げ銭という形で収益にしてるのですが、もともとハードルが少し高いやり方なので、それもガクンと減りました。僕のようなちっちゃいミュージシャンが続けるにはどうしたらより良いのか悩んでいます。

でも、配信をやめてしまうようなことはしなくていいのかなと思っています。あるお客さんから「晃生さんのお客さんにはシャイな人が多いから、配信の方が気楽でいいという人がいるんじゃないか」と言われて、すごく腑に落ちたんです。僕のライブは20人とかの、こじんまりとした空間で行うことが多いので、確かに、そこに来ること自体にも勇気がいる人もいるんじゃないかと。1000人とかいるもっと大きな会場だったらドキドキしないで済むかもしれませんけど。なので、家でドキドキせずに聴けるという形は、選択肢として残せるようにはしたいなと思っています。

なので、どういう風に波及させ、収益にするか。見やすさなども含めて課題ですね。

それから、生身でのライヴは、2月20日と21日に名古屋と浜松で高校生のなおちゃんという女の子が企画者になっているイベントがあります。

なおちゃんと初めてあったのは、彼女が小6の時だったと思うのですが、初対面ですごいオーバーリアクションで驚愕されたことを覚えています。「実物だ!!!」みたいな。

そして、中1からイベンターとして動き始めて、名古屋のモノコトさんが協力する形で継続されてきたイベントです。

なおちゃんみたいに、やってみたいことを大人になるのを待っていられない!、という機会も少しずつ増えてきてる気がして、それはすごくいいと思います。「無理だよ」じゃなく、「いいね、やってみよう」って言ってくれる大人がいることも素敵で、僕も「いいね、やってみよう」って沢山言ってあげられる大人であれたらいいなと思います。


__最後に読者のみなさんに一言どうぞ!!

アルバム『ほうれんそう』は、まずぜひ聴いてみてもらいたいです。で、しっかり聞いた人ほど、「なんかリアクションしないとかな…」と思ってもらえるような、めんどくさ〜い仕掛けも曲に少し込めてみました。投げた球が返ってくるのって本当に嬉しいので、聴いただけで終わらない作品に出来たらと思ってます。皆さんからの感想や意見は僕の今後につながっていて、大事な栄養だと思ってます。

どうぞよろしくお願いします!

☆インタビュー後記☆

今回、インタビューをさせて頂いた理由は、晃生さんが最後に言われていた通りで、まさにこのアルバムを聴くと何かリアクションをしないといけないのではという気にさせられたからだ。せっかくなので、ウェブマガジンという立場を活用して、双方向のコミュニケーションが取れるインタビューを提案したところ、快諾して頂けた。

実は、インタビューの中でも話があった先行試聴を私もさせてもらった。そこで心の中がザワっとした曲があった。それが表題曲になっている「ほうれんそう」だった。

よく聴いていくと、これはとてもズルイ曲だと感じる。インタビューでも言われていた通り、晃生さんの葛藤をそのまま曲にしてある。そんな個人的な曲を作って聴き手に聴かせるとはズルイ。ズルイとわかっているのに、心の奥底に染み入ってせつなくなる。間違いなく晃生さん自身の歌なのに、どこかに普遍性を感じさせる。だれの心の奥底にもある思い出のかけらがよみがえるような、だれの心の奥底にも眠っている「本当はこうなりたいのに」という葛藤を揺さぶり起されるような、そんな曲だ。それを晃生さんの持ち前の優しく伸びやかな歌声で丁寧に、少し暑っ苦しく歌いあげている。ラップ調を取り入れるという晃生さんの狙いもここにあったのだとお話を聞いて納得する。

そして、この曲が終わると最後の「当たり前」という曲につながっていく。「そうだ そうだったんだ」との歌いだしにざわついていた気持ちがほっとする。この曲は、インタビューの中でも触れられていたが、家族や、友人関係などの自分と関わり合う人とこと、また自分とコミュニティーとの向き合い方にも繋がっていくような曲だ。コロナ禍の中で、身近な人や大切な人と今まで以上に親密に向き合って、少しお疲れ気味な心の中に、すうっと染み入って、わだかまりをそっとほどいてくれるような、心洗われるようなそんな曲でこのアルバムは締めくくられている。

 

このアルバムを、山の中の(失礼かもしれないが)自宅で、1人黙々と作り上げるというのは、どれほどのエネルギーだったのだろうかと考える。晃生さんの音楽家としての気骨を見せつける作品といってもおかしくはないのだろう。制作のスケールは小さいのかもしれないが、その中に詰まった、作り上げられた曲達は決して小さくなく、聴いた人の心の中に大きく広がっていると感じる。

そんな広がりを、いち早くキャッチし、パンフレットとして集約するという取り組みもとても面白い。他の人がどんな球を投げ返したのか、顔も知らない人たちがこのパンフレットの中で繋がり合っていくという素敵な取り組みなのではないだろうか。

そんなことも含めて、この「ほうれんそう」というアルバムは、音楽が広げる夢の世界をまた1つ見せてくれたように思えてならない。

 

☆アルバムインフォメーション☆

小田晃生『ほうれんそう』

 

01. ミーミーミー

02. ぽつねん

03. スケーターズワルツ

04. 畦道に宇宙

05. たそがれ

06. ストレンジ通りからの帰還

07. 森のむこうの原っぱの鬼ごっこの話

08. 風が吹けば桶屋が儲かる

09. ほうれんそう

10. 当たり前

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「簡単じゃないね ほうこく れんらく そうだん」

伝える難しさ。伝わる愛おしさ。

『自分』が囲ったひとつの世界と、その向こう側に思いを馳せる、色とりどりの10篇の歌。

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「ほうれんそう」小田晃生とヨフカシボーイズ【studio session】 YouTubeより

「ほうれんそう」小田晃生とヨフカシボーイズ【studio session】 
YouTubeより